ベトナム人ファット君は、2018年元日の『朝日新聞』を自転車で配達する(筆者撮影、以下同)

 

 2018年1月1日午前1時20分――。年が明けたばかりの東京・世田谷区の住宅街に、近隣の寺から除夜の鐘の音が響き渡っている。

 きれいな満月の夜だった。風はないが、気温は氷点下に近い。澄んだ空気が冷たく、自転車のハンドルを握る手が、軍手越しに痛んだ。

 普段であれば、人気の途絶える時間帯だ。しかし、この日は元日とあって、若いアベックらが駅へと向かい歩いている。初詣客のため、電車が徹夜で運行しているのだ。

 そんななか、駅とは反対に自転車を走らせる若者がいた。新聞配達のため、販売所に集合していくベトナム人たちだ。分厚いジャンパーに手袋、深めに帽子をかぶった姿からは、すれ違う人たちも彼らを外国人だとは気づかないだろう。

 ベトナム人たちは、線路近くのマンション前で自転車を止めた。1階には大きな看板が掛かっている。

〈ASA赤堤〉

『朝日新聞』の販売所だ。これから筆者は、この販売所で働くベトナム人の新聞配達に同行取材する。

 ベトナム人の新聞配達に密着するのは、4年振りだった。前回の内容は、取材後しばらくしてこの連載にも一部寄稿した(2015年1月29日「新聞は絶対書かない『留学生』の『違法新聞配達』」)。

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