【トルコ・口笛言語】(C)Ministry of Culture and Tourism of Turkey, General Directorate of Research and Training 2016, with the permission of UNESCO

 

 世界には、傍目からは奇妙な風習や伝統が無数に存在する。当事者にとっては極めて重要な意味があり、だからこそ長年続いてきた。

 そうしたものの集大成が、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産だ。思いもしない工夫や思想が随所にちりばめられ、知れば知るほど驚きが増す案件も多い。一方で、よく似た風習や伝統技術が微妙に姿形を変えながら、各国で普及している例がある。肌の色や言葉は違えども、人間の考えや為すことには大差ないことを実感させてくれる。日本政府が3月末に新たな遺産候補としてユネスコに登録申請した「伝統建築工匠の技」もその1つと言えそうだ。

黒海沿岸に響く指笛

 ピヨョー、ピョー。新緑の渓谷の中で小鳥のさえずりにも似た音がこだまする。トルコ東部の黒海沿岸部の山村。この地域では、遠く離れた山奥で作業していても、ふもとの仲間たちとやり取りできるよう、鳥の鳴き声そっくりの指笛を編み出し、住民が代々受け継いできた。指を口の中に入れ、高く大きな音を立てる。音の高低や強弱、リズムなどに一定の変化をつけることで、谷を隔てた場所にいる人々と会話することができる。地元では「鳥言葉」と呼ばれている。

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