多くの国民が毛沢東を崇めた(C)AFP=時事

 

(承前) 孫文の秘書として働いた国民党左派の代表格とも言える廖仲愷を父に、国民党左派の女性指導者の何香凝を母に、東京で生まれ育った廖承志は早稲田大学第一高等学院に学ぶ。歯切れよく流暢な東京弁。共産党内知日派の代表で、建国以降は一貫して対日工作を取り仕切っていたことからして、廖承志が柳田謙十郎訪中劇の脚本家兼演出家だったと思える。

「金では動かない」

 さらに柳田は日本と日本人――柳田の用法に従うなら「ミイ氏ハア氏」となろう――に批判の矛先を向けるのであった。

「日本では人間の誠意がそのまま通ずるということは、むしろまれなことである。今の日本人は『金』の前にはいくらでも動かされる。権力の前には無条件で頭をさげる。また地位の高い人の前に出るとわけもなく有りがたがる。けれども誠意に対しては意外に無関心である。万事が金の世の中というものはそういうものなのであろう」とした後、言うに事欠いて、「新中国の人たちは金では動かない」とまで断言してみせる。

 しかし、「新中国の人たちは金では動かない」との1行を目にするに及んで、柳田の神経を疑った。日本の「ミイ氏ハア氏」であったとしても、人前では口にすることを憚るに違いない。にもかかわらず、何の臆面もなく「今の日本人は『金』の前にはいくらでも動かされる」と口にし、「新中国の人たちは金では動かない」とリップサービスに努める。

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