『紅色娘子軍』の軍事訓練シーン。両手に手榴弾を持っている(筆者提供)

 

 4月16日、中国共産党の宋濤・中央対外連絡部長率いる芸術団は、平壌において金正恩朝鮮労働党委員長と李雪主夫人を前に公演を行った。

 テレビのニュース画面でチラッと流れた公演の一部、それに公演後に舞台の上に並び金委員長夫妻を囲んだ役者の衣裳からして、演目は『紅色娘子軍』に間違いないだろう。

『紅色娘子軍』は、1966年から10年間続いた文化大革命(以下、文革)当時、全国民に対し毛沢東思想を徹底して教育・宣伝するために創作された革命模範劇の1つ。テーマは、1946年から始まった国共内戦当時の海南島における地主打倒・農奴解放闘争であり、京劇やバレエ劇、さらには地方劇に翻案され全国で公演された。

 極悪非道の地主である南覇天の家で奴隷として働かされていたヒロインの呉清華が、共産党の指導の下に革命戦士として成長し、やがて娘子軍(女性戦闘部隊)を率いて南覇天を頭目とする地主たちの武装勢力を殲滅、地主階級を葬り去って農奴と農民とを解放する――これが粗筋。言わば“定番”の毛沢東思想式勧善懲悪芝居ではあるが、軍事訓練の場面で、短いズボンを穿いて娘子軍に扮するうら若き女性役者たちが“美脚”も露わに飛んだり跳ねたり射撃したりする“隠れた見所”が秘かに人気を呼んだとも言われる。老若男女を問わずにくすんだ色の服装でズボンを穿き、若い女性はスカートもパーマも化粧も咎められ、男女の恋愛などは資本主義的不道徳であり、社会主義道徳ではふしだら極まりない行為と事実上厳禁とされた超禁欲時代だっただけに、“そのシーン”は汗臭い若者の心を強烈に刺激したそうだ。

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