「王」から「皇帝」へ――古代中国史から

執筆者:岡本隆司2018年4月28日
中国最古の歴史書『史記』は、「五帝本紀」から始まる(国立国会図書館デジタルコレクションより)

 

 君主号を具体的に見てゆくにあたっては、まず最もポピュラーな「王さま」、「王」号からとりかかるのが、やはり順当なところだろう。「王」はご覧のとおり漢語・漢字なので、もともと中国の君主である。

 そこでまずは、漢語の辞書で「王」を引いてみると、「君主」という意味を載せるのは当然にしても、あわせて掲出する語釈は「天子」である。こちらが中国特有のものだと言ってよい。

「王」と「天子」

 天子とは、天から命ぜられ、天下を統治するよう委任を受けた主権者のことを指す。いわゆるこの「天命」が、君主国家たる中国の主権を存立させる、史上ほぼ一貫したゆえんだった。だとすれば、この「天子」が中国史上、ほぼ通時代的な君主の名称にあたるであろうか。天子がどのように呼ばれたか、その称号が時代の個性を映し出すと言い換えてもよい。その天子がすなわち「王」であった。

 中国で最古の文献といえば、儒教の経典である。少なくとも史上の思想的・言語的な見地から見るかぎり、そうならざるをえない。そして儒教の理想は、周王朝(紀元前1046年頃~紀元前256年)の統治・治世であった。その周のトップが称した称号が「王」だったので、漢語でまず普及した君主号が「王」となったわけである。

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