「君主号」の世界史 (3)

「王」から「皇帝」へ――古代中国史から

執筆者:岡本隆司 2018年4月28日
タグ: 中国
エリア: アジア
中国最古の歴史書『史記』は、「五帝本紀」から始まる(国立国会図書館デジタルコレクションより)

 

 君主号を具体的に見てゆくにあたっては、まず最もポピュラーな「王さま」、「王」号からとりかかるのが、やはり順当なところだろう。「王」はご覧のとおり漢語・漢字なので、もともと中国の君主である。

 そこでまずは、漢語の辞書で「王」を引いてみると、「君主」という意味を載せるのは当然にしても、あわせて掲出する語釈は「天子」である。こちらが中国特有のものだと言ってよい。

「王」と「天子」

 天子とは、天から命ぜられ、天下を統治するよう委任を受けた主権者のことを指す。いわゆるこの「天命」が、君主国家たる中国の主権を存立させる、史上ほぼ一貫したゆえんだった。だとすれば、この「天子」が中国史上、ほぼ通時代的な君主の名称にあたるであろうか。天子がどのように呼ばれたか、その称号が時代の個性を映し出すと言い換えてもよい。その天子がすなわち「王」であった。

カテゴリ: 社会 カルチャー
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執筆者プロフィール
岡本隆司(おかもとたかし) 京都府立大学文学部教授。1965年、京都市生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。博士(文学)。専門は近代アジア史。2000年に『近代中国と海関』(名古屋大学出版会)で大平正芳記念賞、2005年に『属国と自主のあいだ 近代清韓関係と東アジアの命運』(名古屋大学出版会)でサントリー学芸賞(政治・経済部門)、2017年に『中国の誕生 東アジアの近代外交と国家形成』で樫山純三賞・アジア太平洋賞特別賞をそれぞれ受賞。著書に『李鴻章 東アジアの近代』(岩波新書)、『近代中国史』(ちくま新書)、『中国の論理 歴史から解き明かす』(中公新書)、『叢書東アジアの近現代史 第1巻 清朝の興亡と中華のゆくえ 朝鮮出兵から日露戦争へ』(講談社)、『悪党たちの中華帝国』(新潮選書)など多数。
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