
ヴェナトールと呼ばれる獣専門の剣闘士がライオンと戦う様子を描いた古代ローマのモザイク。チュニジアのバルド国立博物館に展示されている (C)REUTERS/Will Dunham
[ロイター]ローマの有名なコロッセオや、ローマ帝国時代に各地で存在した円形闘技場では、剣闘士らが人対人の決闘だけではなく、猛獣との戦いにも挑んでいた。その様子はモザイク画や文献に残されてきたが、法医学的な観点からは痕跡が見つかっていなかった。
遺骨が出土したのは剣闘士の墓地とされる遺跡。男性は推定年齢26〜35歳で、3世紀頃に生きていたと考えられる。ヨークは当時エボラクムと呼ばれており、ローマ帝国の属州ブリタンニアの北部に位置する重要な軍事拠点だった。
骨に刻まれた噛み跡からは、男性が闘技場で命を落とした経緯が推測できる。
「大きな歯が柔らかい組織を突き破り、骨には刺し傷と波打つような形の変形が残った。この程度の傷ならば命に別状ないため、この傷が命取りとなったとは考えにくい。また、ライオンのような大型ネコ類がふつう攻撃する部位ではない。そのため、男性が動けなくなってから引きずられた痕だと考えられる」とアイルランド・メイヌース大学の法医人類学者で、論文の筆頭著者のティム・トンプソン氏は語る。論文は4月23日に学術誌『PLOS One』に掲載された。

噛み跡が残る男性の骨盤。動けなくなってから引きずられた時の傷と考えられる。遺骨はイギリス・ヨーク付近の墓地で見つかった (C)Thompson et al., 2025, PLOS One/Handout via REUTERS

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