日本外交を陰で支える「タイ人」公邸料理人

執筆者:西川恵2018年4月27日

 

ブータンへ出張して和食を振る舞うスポットさん
 

 日本の外務省には「公邸料理人帯同制度」というのがある。日本大使が任地で和食の招宴を行うため、料理人を連れていく制度だ。この公邸料理人にタイ人が加わるようになって、今年で25年が経つ。最も長く勤めているのはスポット・カドペットさん(45)。現在は駐インド日本大使公邸の厨房を預かっている。

バンコクで始めた「指導育成教室」

 一昔前、外務省ではこんなジョークが交わされていた。

「大使にとって大事なのは、1に料理人、2に次席(大使館のナンバー2)、3に夫人」

 妻を差し置いても、公邸の招宴を支える料理人と、大使館の業務全般を掌握する女房役の次席(主として公使)が大切だというのだ。ジョークをまぶしながら、大使の外交活動にとっての優先事項が何かが見えてくる。

 公邸の招宴はその国の各界各層に人脈を作り、さまざまな情報を集め、日本ファンを増やしていく上で欠かせない活動だ。日本外交を現場で支えていると言っても良い。特に日本は「和食でのもてなし」を基本としているため、外務省は1970年代に「公邸料理人帯同制度」を導入し、外国に赴任する大使に和食の料理人を紹介してきた。

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