中国が待ち望んだ「北京五輪」の皮肉

執筆者:藤田洋毅2008年9月号

北京でもテロ発生、「一二〇路線」のバスが炎上――真偽は定かでないものの、密かに流れた情報がある。それ以外にも次々と……。「やはりというか、いよいよというか」――国務院の中堅幹部は不安を隠さない。北京の中心部を走る路線バスが「七月三十日の夜遅く炎上した」との未確認情報が一部を駆けめぐった。この幹部がよく利用する路線だったため、「地方に住む友人(の高級幹部)が大丈夫かと電話してきて、初めて知った」という。そこで周辺に当たると、「関係者には緘口令」「ネット情報はすべて削除」「現場責任者は直ちに解任」などが明らかに。事件か事故が起きたのは間違いなさそうだが、「輪郭も被害規模も見えない」という。「事実なら胡錦濤指導部への打撃は極めて大きい」と幹部は続けた。テロに備え何重にも張りめぐらせた「首都防衛線」までが突破され、「五輪会場やその周辺、内外の要人や選手団、海外からの観光客、取材陣」の安全を確保する最終防衛線での戦いに突入したことを意味するからだ。組織的テロではないが八月九日にはアメリカ人観光客が中国人に刺殺された。中国共産党のメンツは丸潰れ。中国台頭を世界に誇示し、党独裁を磐石にしようとした指導部の思惑ははずれ、五輪は政権の足元を揺るがす導火線にもなりかねなくなった。

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