なお、先ほどの「パーレビ国王のインド太平洋戦略」は、先日出席した日本貿易振興機構アジア経済研究所(アジ研)の研究会で聞きかじった話を元に調べてみたものである。パーレビがインド洋をオーストラリアから東南アジアまで含む世界として認識し、インドとの経済関係の緊密化でこのインド太平洋世界に雄飛しようと構想していた、というのは私にとっても初耳であった。これを教えてくださったのは、私も所属したことがあるアジ研の大先輩でもある清水学(元・一橋大学教授)にご教示を受けた。インド・エジプト・中央アジア旧ソ連圏など地球を大きく横断して研究をしてきた清水先生ならではの広い視野、長い時間軸からの視点は私にとって得るものが多く、研究会のたびに食いついてあれこれ聞き出しては調べものの土台にしている。

研究者の生活というのは、(昨今とみに増加している事務作業の合間を縫って)立場や経験を異にする、ただし方法論や基礎情報を共有した専門家同士で、研究会や学会で頻繁に議論をし、相互に情報を持ち寄って攪拌していくところに、最も重要な部分がある。最終的に論文となり、論説となってメディアに掲載されて世間の多くの目に触れる前に、水面下で、たいていは非公開の場で、この種の作業を膨大に積み重ねて、より高度な共通認識や知見を、研究コミュニティの中に育てていく。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。