200年前に生まれた「奴隷少女」の手記はなぜ現代でベストセラーになったのか

『ある奴隷少女に起こった出来事』(新潮文庫)訳者インタビュー

執筆者:フォーサイト編集部2018年6月26日
法で認められ、少女でさえ過酷な人生を強いられていた時代があった(写真はイメージ。本書とは関連はありません)

 

 約200年前にアメリカで出版された、奴隷少女の回顧録『ある奴隷少女に起こった出来事』(ハリエット・アン・ジェイコブズ著/堀越ゆき訳/新潮文庫)が、いま、国内外で注目を集めている。

 19世紀にアメリカ南部のノースカロライナ州で奴隷として生まれた少女によって綴られたこの「手記」は、あまりに過酷で壮絶、そしてドラマティックな内容であることから、本国のアメリカでも、出版から1世紀以上にわたって「白人著者による創作=小説」と見なされ、忘れ去られていた。

 ところが1987年、その評価は一変する。ある歴史学者の調査によって、筆者は実在した奴隷少女で、記された驚くべき体験のすべてが事実であることが証明されたのだ。それにより、同書は「奴隷文学、アメリカ史、女性史というカテゴリを超えた読者」(訳者あとがき)から絶大な支持を集め、同時に全米で作品の再評価を求める機運が高まったことで、一躍ベストセラーの仲間入りを果たした。

 日本では、2017年7月に新潮文庫から刊行され、以来、いまも版を重ねている。奴隷少女の手記が日本で広範な読者を得ている現象は海外主要メディアの関心も引き、すでに米誌『フォーブス』をはじめ、仏紙『ル・モンド』、英紙『インディペンデント』などで大きく取り上げられている。

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