まことの弱法師(28)

執筆者:徳岡孝夫2018年8月11日

 私を最も手古摺らせたのはShort Story Writingのゼミだった。つまり短編執筆である。ただ文学のゼミではないので小説ではなく、ノンフィクションの書き下ろしである。英語を喋るのでさえ少し構えてからというのに短編とはいえ文章を書いて読者に読んでもらうのは至難の業である。

 それだけではない。書いた原稿を売ってそれが掲載されればゼミの点数になるという。文章にはニュアンスや調子があり、日本語で考えそれを英語に翻訳した文章は読むに堪えないだろう。とにかく、まず書くテーマを考えることである。ただ書くための手引きはあった。Writer's Guideという本。

 原稿を求めているアメリカ中の出版社の名、誌名、住所、どんな原稿を求めているか、原稿料まで列挙され、それが一冊の本になっている。今ならGoogleで調べればすぐ分かるが、60年前の執筆者にはその本しか武器がなかった。

「ニューズウィーク」「ライフ」をはじめ「ニューヨーカー」のような高級誌、庭造り専門誌から散髪屋の業界誌までが書いてある。

 執筆者を助けるためにはReader's Guide to Periodicalsという逐次刊行誌もあって、情報が簡単に手に入る。誰かが本に書いていたと思えばBook review Digestを調べれば良い。新刊書の書評が要約してある。

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