第71回カンヌ国際映画祭で「万引き家族」が最高賞パルムドールを受賞し、帰国会見する是枝裕和監督 (C)時事

 

 1995年3月20日、オウム真理教による地下鉄サリン事件が起こり、その年の12月に是枝裕和監督の映画デビュー作『幻の光』が公開される。そして、今年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した是枝監督の新作『万引き家族』の日本公開(2018年6月8日)から約1カ月後の7月6日、尊師・麻原彰晃(松本智津夫元死刑囚)ら7名の死刑が執行された。残る死刑囚6名も同月26日に執行。私の中で、オウムと是枝監督は、どこか響きあって思い出される。

23年のディスタンス

 是枝監督には『DISTANCE』(2001年)というカルト教団による無差別殺人を扱った映画がある。「真理の箱舟」の信者が水道にウイルスを混ぜて100人以上を殺害、その実行犯たちは(おそらく)集団自殺し、遺灰は教団によって湖に撒かれた。教祖はのちに自殺。映画は事件から3年後、湖を訪れた実行犯の遺族たちと脱走した元信者を描いている。

 明らかにオウムを踏まえているが、実際の一連の事件では、在日韓国人の暴力団組員に幹部が刺されて死亡する事件(村井秀夫刺殺事件)はあったが、実行犯らが自ら命を絶ったり、幹部や逃亡犯が自殺することはなかった。「真理の箱舟」が架空の教団であるのはもちろんだが、オウムに似せようとする意図も感じられない。どんな教団だったか、劇中ではほとんど提示されていない。

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