カンヌに勢ぞろいした「万引き家族」の面々。左からリリー・フランキー、佐々木みゆ、安藤サクラ、是枝裕和監督、樹木希林、城桧吏、松岡茉優(C)AFP=時事

 

『万引き家族』(原案・監督・脚本・編集=是枝裕和)は、本稿(上)で述べた3つの出発点の延長線上にある。

 画面を作るテクニックはいよいよ磨きがかかった。例えば、終盤で治と祥太が信代に面会するシーン。信代は祥太を攫った場所を本人に告げるが、この切り返しでカメラは両者の目線をまたぐ。ほかにも鏡や反射の効果、治と祥太が連れてきた少女・じゅりのシーンに登場する球体、オレンジ色の果実の反復使用、電車や船の通過といった動きの設計、衣裳を含めた記号論的配色など、暗示の技術は世界的水準と言える。夏に夕立が降り出すカットの、ふと暗くなる感じなどはスタッフ同士の連携のたまものだろう。フィルム撮影なので火の色はキレイに出た。その一方、夏のシーンで庭に面した網戸を開け放しているなど、おかしなディティールがあるのも相変わらず。

是枝マジック・水芸篇

 疑似家族を演じる主要登場人物たちは、みな何らかの「被害者」に設定されている。そして彼らは「窃盗(治・祥太)」「虐待(信代・じゅり)」「男女問題(初枝・亜紀)」の3つのグループを形成し、相互には無関係なものが共同生活することで絡み合う。この平屋は「同じ境遇」を作るためのプラットフォームなのである。なぜ彼らが共同生活をするのか、信代は過去にどのような虐待を受けたのか、なぜ亜紀は実家を出たのか、正当防衛とはいえ治と信代はどんな状況で信代の前夫を殺害して埋めたのかなど、物語の細部はヒントばかりで答えがないクイズのようだ。

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