無謀なる鳥類学者は超優秀? それとも…

川上和人『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』(新潮文庫)

執筆者:仲野徹2018年8月19日
川上和人『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』(新潮文庫)

 

 この本のタイトルを見たとき、心底驚いた。まともな研究者は、基本的に専門外の領域に口出ししない、という不文律がある。それが、大胆にも鳥類学者が恐竜を語るというのだ。

 こういうことをする輩(やから)は、とてつもなく優秀かアホかのどちらかと相場は決まっている。「世のなかには2種類の人間がいる。恐竜学者と鳥類学者だ」。冒頭にある意味不明な文章を読んだだけで、とりあえずアホの可能性が高そうである。

 タイトルには「無謀にも」と断ってあるから、それなりの謙虚さを漂わせているふうではある。しかし、「矛盾には気づかぬふりをし」、「包括的な大いなる愛をもって」、「ほころびに目をつぶり無批判に」、「協力的読法」で読んでほしいと懇願するとは何事だ。本を書く人は誰もがそう思っている。何を隠そう私もそうだ。しかし、こういうことは、恥ずかしいから書かへんのが普通やろ。

「はじめに」を読み終わったあたりで、早くも読者は2通りに分かれるだろう。「なんやこの川上いう奴は、川上どころか研究者の風上にも置かれへんから、読んだらへん」派と、「むっちゃおもろそうでワクワクしてきたわ」派、である。私は心ある生命科学者であるから、当然前者であるべきだ。しかし、それ以前に心優しきおっさんであるから、粛々と読み進めることに。

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