ローマ美術の代表作と称される「プリマポルタのアウグストゥス」。バチカン美術館蔵

 

「命令権(インペリウム)」の濫立を収束し、「平和」を現出したアウグストゥス。しかしかれの事業は、それでおわらない。むしろそこからはじまった。かれはまだ、30代前半なのである。

アウグストゥスの事業

 平和の回復なら、前例に事欠かない。ライヴァルに勝利し、リーダーシップを確立するだけなら、スラもカエサルも、その天才でやってのけたことである。しかしそれが永続するとは限らない。かれら本人が歿すれば、またぞろ「内乱」がおこった。せっかく一元化したリーダーシップ・「命令権」が、拡散紊乱をくりかえしたからである。

 禍根は断ち切らねばならない。そもそもその直接の被害者が、当のアウグストゥス自身である。自分の身と地位の安全・安定のためにも、それは不可欠なのであった。

 若きアウグストゥスは、天才カエサルの横死という前轍を踏まぬよう、細心の注意をはらっている。イタリアおよび属州すべての「命令権」を自身ひとりで掌握したまま、しかも生涯あくまで従前の共和政の制度・精神にのっとってふるまいつづけた。カエサルのような独裁に見えないよう、権勢を集める自らを元老院・ローマ市民の、つまりSPQRの「第一人者(プリンケプス)=元首」にとどめている。その節度を守ることが、まさにライフワークになったのである。

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