灼熱――評伝「藤原あき」の生涯(11)
2018年9月30日

まだ髷を結っていた頃の藤原あき。正確な撮影年は不詳。この後、あきは波瀾万丈の人生を送ることになる(自伝『雨だれのうた』(酣燈社)より)
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若くも美しく箱入りで育てられてきた生娘が、三つ指ついて自分の所有物になる。新床の甘露をむさぼり、若鮎のしなりを夫は汗ばんだ骨っぽい手で押さえる。
はじめ新妻はからだ中に力を入れて拒否してきたが、毎晩のように隣りの床から執拗に求めてくる夫に、心とは裏腹、次第に女の身体が反応して行く。
肉体の目を開かれていくあきは、夫に抱かれることに後ろめたさを感じ、その罪悪感から体感したことのないほどの恍惚感に包まれる。
接吻は、夫の方からもあまり求められないが、なるべく重ねないようにし、最悪の時はしっかり目をつぶり唇は固く閉じて応じる。唇は初恋の男性・島津忠弘が重ねた、あきにとって大切な聖域でもある。今でも自分の指を唇に触れさすと、あの時の藤棚から漂う香りがよみがえるほどだ。そこだけはなるべくこの夫に近づけるものかと思う。
恍惚が解ければやりきれない虚しさが全身にふりかかり、すべてを忘れたくなる。心と身体の調整がうまく取れない毎日が続く。
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