存在しない「ロヒンギャ難民」の存在の重さ

執筆者:篠田英朗2018年10月23日
バングラデシュ南東部・コックスバザールの難民キャンプに広がる、「ロヒンギャ」の家々 (C)時事

 

 私が今夏にバングラデシュの研究所で報告を行ったときの様子は、当地のメディアでとりあげられた。日本人が中国にまで言及し、ロヒンギャ問題への地域的な政治対応の枠組みが必要だ、と述べたことが、目を引いたようだ。  

 もちろん私とて、地域大国による問題解決の努力が始まる現実的な見込みがあると考えているわけではない。しかし現在は、複雑なロヒンギャ問題への政治的対応の試みが、あまりにも欠落している。問題解決の見込みがないどころか、事態改善の糸口すらないのが、実情だ。

 もちろん人道危機への対応は、重要だ。しかし、このまま人道支援だけを続けていれば、そのうちに改善の兆しも見えてくるだろう、と考えることができるわけでもない。

 日本には関係がない、といった認識が、日本国内にあるかもしれない。しかしミャンマーは、日本が推進する「インド太平洋戦略」と、中国の「一帯一路」イニシアチブがせめぎあう重要地域である。

 そのため日本政府は、ミャンマー政府に配慮し、ロヒンギャをロヒンギャと呼ばないといった措置も徹底している。日本政府の資金で活動するジャパン・プラットフォームに加盟する民間NGO(非政府組織)に対してすら、ロヒンギャをロヒンギャと呼ぶことを禁止している。

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