『赤い国の旅人』収録の『世界紀行文学全集』12巻

 

火野葦平『赤い国の旅人』(『世界紀行文学全集』修道社 昭和46年)

 某日、中央人民政府鉄道部(中国鉄道省)の車両修理工場見学の折りのことである。所長が工場に関する紋切り型の説明を行った後、革命の過程において同工場で展開された血の労働運動史を2人の「老闘士」が語った。すると、〈一行中の労働運動家、国鉄労組の若い代表、左翼教授たちの眼がいきいきと輝〉きだした。常久などは通訳を介し、〈われわれ日本の労働者も、あなた方の輝かしい勝利の記録にならって、資本主義や帝国主義とたたかいます。どんな困難があってもかならず革命を成就させる決心です。どうぞ、お二人ともそれまで長生きして、日本の革命を見て下さい〉と、日本革命への“固い決意”を披瀝するほどである。

 視察先の華中科技大学に向かおうとホテルの表に出た時、〈一行の中に異様な服装の者が一人まじっているのが、たちまち注目をひいた。中国の工人服に工人帽をかぶっている。国鉄労組の若い松坂君だった。高柳さんは工人帽だけをかぶっていた〉。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。