「理想の上司像は?」という質問に、私は定番の答えをもっている。「パトレイバーの後藤さん」というのがそれだ。

 ゆうきまさみの『機動警察パトレイバー』(小学館)は、東京を舞台とする近未来SFマンガの傑作だ。多足歩行式ロボット「レイバー」が広く普及し、急増するレイバー犯罪に対処するため、警視庁が本庁警備部内に設置した「パトロールレイバー中隊」特車2課の活躍が描かれる。「後藤さん」はこの特車2 課の第2小隊を率いる後藤喜一隊長のことである。

「大人の世界」が作る味

 アニメ、実写と何度も映画化されたこのマンガが極上のエンターテインメントであることは、今さら指摘するまでもないだろう。掲載誌は『週刊少年サンデー』だったが、大人の鑑賞にも十分耐える。というより、大人でなければ十分味わえないほど、警察や企業など「大人の世界」の機微や緊迫感が作品の味を作っている。

 例えば、当時はテレビや映画でもほとんど取り上げられることがなかった警察組織内のキャリアとノンキャリの微妙な関係も、スパイスとして効果的に使われている。敵役のレイバー「グリフォン」の母体になる多国籍企業「シャフト・エンタープライズ」の社内抗争の綱引きも、戯画的ではあるが十分なリアリティーがある。多様なレイバーも技術発展の裏付けを持ったリアルな存在として描かれ、キャラクターの造形やそれぞれのドラマも丁寧で、恐ろしく完成度が高い。

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