「ゴーン」だけではない「強欲経営者」列伝

執筆者:杜耕次2018年11月22日
墜ちたカリスマ(C)AFP=時事

 

 東京地検特捜部による日産自動車会長、カルロス・ゴーン(64)の逮捕が世界に衝撃を与えている。報酬の過少申告に加え、海外子会社の資金の私的流用などへ疑惑は広がり、事実ならば、その強欲さは巨大企業のトップとしては前代未聞。山高ければ谷深し――。
「日産再生の立役者」との評判が高かっただけに、金銭スキャンダル発覚後の風当たりの厳しさは当然だろう。
 だが、実績に見合うとは思えない破格の役員報酬を得ている例は他にもある。日本では2例目という司法取引を使った特捜部の異例の摘発には、初心(うぶ)な日本企業をカモにする外国人経営者を一網打尽にする狙いも秘められているのかもしれない。

トヨタの報酬の「7倍」

 ゴーンの突出した高額報酬はかねてヤリ玉に上がっていたが、最初に兆候が表れたのは、親会社の仏ルノーから日産に送り込まれてから2年後の2001年6月21日だった。
この日、ゴーンは株主総会後の取締役会で社長兼最高経営責任者(CEO)に着任。名実共に日産のトップとして最初に打ち出した施策が、役員報酬総額の上限の引き上げだった。
 それまで10億8000万円だった上限額を15億円に引き上げただけでなく、併せて9年ぶりに役員賞与を復活させ、8人の役員に総額2億6000万円を支給することを決定した。「目標を達成した際のインセンティブが働く仕組みにする」というのがこの時のゴーンの説明だった。
 確かに、直前の連結業績は最終損益が4期ぶりに黒字転換した。1998年3月期に140億円、1999年3月期に277億円、2000年3月期に6844億円をそれぞれ最終赤字として計上。3年間で累計7261億円という長い赤字のトンネルから脱し、ようやく2001年3月期に3311億円の黒字へと「V字回復」したところだった。
 ただ、人に譬(たと)えれば、重病がようやく癒え、なんとか自立歩行を始めた段階。株主やアナリストの間では「役員報酬の引き上げは時期尚早」との見方が多かったものの、結局は「一丸となって危機を乗り切った役員に報いるのも今後の士気向上のために必要」(当時の日産関係者)という“ゴーン支持派”の意見が通ってしまう。ところが、月日の経過と共に日産の高額報酬は役員を一丸にするものではなく、特定の個人、つまり絶大な権力を振るうようになったゴーンに集中的に支給されるものであることが明らかになっていく。
 最初に大きく批判を浴びたのは、2007年3月期に日米市場での販売不振により、ゴーンのトップ就任以来初めて減益になった時だった。連結営業利益、最終利益ともに前期比11%減となり、マスコミは「“ゴーン神話”に陰り」と書き立てた。
 批判の高まりを受けてゴーンは前期に取締役7人に対して総額3億9000万円を支払っていた「役員賞与」をこの期はゼロにすると表明したが、「役員報酬」については前期と同じく総額25億円とした(「役員報酬」の上限は2001年に15億円に引き上げられた後も増額が続いていた)。
 しかも、支払いの対象となる取締役の数は前期の11人から9人に減っていたため、1人あたりの受給額は増える計算だった。
 当時、日産の1人あたりの役員報酬額は、トヨタ自動車の7倍と言われた。2007年3月期の両社の連結業績を比べると、売上高はトヨタの23兆9481億円に対し、日産は10兆4686億円と半分以下、最終利益はトヨタの1兆6440億円に対し、日産は4608億円と3分の1以下。トヨタの「渋チン経営」は脇に置くとして、これほどの劣勢にもかかわらず7倍の報酬を役員に与える日産の大盤振る舞いが、株主の批判を浴びるのも無理はなかった。

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