2015年以降のヨーロッパ政治の変化は、メルケル首相(写真)にとっては異物でしかなかった (C)AFP=時事

 

 ドイツ政治は一斉に「メルケル後」に向け走り出した。と同時に、「アンゲラ・メルケル」とは一体何者だったのか、そう問う論評が各紙をにぎわしている。その中ではスイスの『ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング』紙が鋭い。

異物だった「アイデンティティー」重視

 メルケル首相を振り返るとき、3つの視点が有効かもしれない。

 第1は、改めて言うまでもないが、ヨーロッパの政治風景は2015年を境に一変した。それまでは「グローバル化」と「統合」が進行し、それと共に、「冷静」で「合理的判断」が支配的だった。強権的ではない、という意味では、「女性的」な優しさが支配した時期と言ってもいいかもしれない。これが、2015年を境に様変わりしたのだ。

 突如として、グローバル化の負の側面が強調され始め、併せて統合への忌避感が一層強まることとなった。前面に躍り出たのは、「グローバル」や「ヨーロッパというリージョナル」ではなく、専ら「国境内部」の利益である。それに伴ってヨーロッパは「分断」が進行し、人々は「寛容性」を失い、「対立」しあうようになっていく。権力は女性的と言うより「男性的」で「強権指向」の者が主導するようになり、合理的で冷静な判断よりは、「感情」に訴え、「共同体」に根差した「伝統的価値」を前面に押し出す「泥臭く」、しかし、ある意味「人間的」な政治が支配するようになる。

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