サウジ・ムハンマド皇太子問題のポイント

執筆者:池内恵2018年12月6日

10月2日にイスタンブルのサウジアラビア総領事館で発生したサウジ人記者ハーショクジー(カショギ)氏殺害事件をきっかけにした「サウジ問題」あるいはより正確には「ムハンマド皇太子問題」についての国際的な関心は持続している。「ゴシップ・ネタ」として面白いためか、普段サウジにも中東にも関心を抱かない各種メディアが熱心に報道し続けているので、そこに加わる気はないが、重要なポイントをいくつかメモしておきたい。

1.トルコ・エルドアン政権の対応の意図と効果

トルコは情報を巧みに小出しにリークして話題を提供し続け、ムハンマド皇太子の国際的な威信や影響力、行動の範囲を確実に制約している。

トルコ・エルドアン政権の目的は「ムハンマド皇太子の退位」といった、国際メディアがわかりやすく設定する勧善懲悪的な結末とは限らない。もしそうであればより明白にムハンマド皇太子の関与を裏付ける情報を公開してしまっているだろう。また、ムハンマド皇太子を退位させてその後にトルコにとって都合のいい為政者が来るとも予想しにくい。

トルコにすれば、重大な弱みを握ったムハンマド皇太子がサウジの国王になることは、悪いことではない。アラブの最有力国であるサウジの中枢をこの事件をきっかけに一定の統制下におけることはトルコにとって有益だろう(サウジが本当に「大国」と言えるかどうかが不確かで、そこにまさにムハンマド皇太子の行状をきっかけに疑問符が付されているのだが)。

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