『葡萄畑に帰ろう』のワンシーン。「岩波ホール」ほかにて公開中、順次全国ロードショー。配給:クレストインターナショナル、ムヴィオラ

 

 ソ連時代より評価の高いジョージア(グルジア)映画界を代表するベテラン監督であるエルダル・シェンゲライア(ソ連期からの表記はシェンゲラーヤ。同じく映画監督である弟のギオルギ・シェンゲライアと区別するため、本稿では以下、適宜「兄シェンゲライア」とも記す)の新作『葡萄畑に帰ろう』が公開されている。

 1983年に撮影された『青い山 本当らしくない本当の話』はもう30年近く、筆者にとってジョージアという国を理解する上でもっとも重要な作品の1つであり続ける。さらに、後でその経歴でも触れるように兄シェンゲライアはソ連末期から政界で活躍し、国会副議長を長年務め、実に新作映画は約20年ぶりという。一見単純に見えて、実は非常に難解という、いかにも兄シェンゲライアらしい作品であり、また様々な問題を孕んだ問題作のようにも見える。背景が非常に複雑でありながら、ほとんど日本語で説明されていない点も映画鑑賞を難しくしている。

 そこで本稿では、パンフレットにも詳しい監督の経歴は抑え目にして、いくつかの前提についてしっかり触れてみたい。以下に述べるように、兄シェンゲライアの作品は諷刺と含蓄に富むので、雰囲気が気に入れば本稿で触れるディーテールや「読み」も踏まえてご覧いただければ幸いである。

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