「ミニ・ソ連」樹立へロシアの野心が膨らむ

執筆者:名越健郎2008年10月号

原油高のおかげで力を回復したロシアが“領土奪還”を窺っている。グルジア内の二地域ばかりか、ベラルーシから、さらに――。 八月にロシア軍によって占領されたグルジア中部の町ゴリを四年前に訪ねたことがある。首都トビリシから八十キロ。十二世紀にアルメニア人が作った人口五万の古い町で、オセチア系住民も多く、カフカス地方の人種の坩堝といった雰囲気だ。近隣の紛争地、南オセチア自治州から民兵が侵入し治安が悪いと、当時から住民が話していた。 ゴリは旧ソ連の独裁者スターリンの出身地。市内にはスターリンの小さな生家が保存され、立派なスターリン博物館やスターリン像があった。本名ヨシフ・ジュガシビリことスターリンは、この町では今も偉大な英雄である。 分離独立を図る南オセチア奪還を目指して開戦を命じたグルジアの親米派・サーカシビリ大統領一家もゴリに近い貧しい山村の出身。誕生日もスターリンと同じ十二月二十一日だ。ロシア軍の過剰報復を読みきれなかったサーカシビリには、スターリン的な独善的体質があった。 ゴリは今回、ロシア軍の怒涛のような進撃に蹂躙され、百人以上が死亡。空爆で一部のアパートが瓦礫の山と化したが、スターリン像やスターリン博物館は無事だった。スターリンが育てた秘密警察に長年勤務したプーチン首相がスターリンに敬意を表したのかもしれない。

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