人も車も家も街もすべてがのみ込まれてしまった(C)AFP=時事

 

 2004年12月クリスマスの翌朝、スマトラ沖の巨大地震により生じた津波がスリランカ南岸を襲う。海岸のホテル滞在中の経済学者ソナーリ・デラニヤガラは、一瞬にして夫のスティーブと2人の息子ヴィクとマッリ、そして両親をうしなった。

 本書『波』(ソナーリ・デラニヤガラ著 佐藤澄子訳、新潮社)は、その後8年間、彼女が回想というよりも、むしろ目の前に見、声を聴き続ける、亡き家族とのやり取りの日々を描いたものである。

 彼女の最初の反応は自殺することだったが、夜も昼もそばにいる献身的な友人たちが彼女を護った。次いでアルコールをがぶ飲みし、酔っぱらい、睡眠薬を飲み、黒いミミズが何百匹もぞろぞろ這ってくる幻覚を経験した。

新潮クレスト・ブックス、2160円

 2年たち、夫の勤めていた研究所が開いた彼の追悼講義に出席する。気づくと、彼と一緒に映画を見ていた想い出にふけっている。「映画は7時からよ。さあ、もう行かないと、スティーブ」。

 3年たった春、友人の車に乗せられて、イギリスの田舎道の穏やかなカーブを走っている。ここでもスティーブがハンドルを握り、息子たちはうしろの席にいる気持ちになる。うしろの席から声が聞こえる。「ママ、明日は学校のある日?」思わずうしろを向く。

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