3月2日、ベトナムから帰国の途につく金正恩党委員長。その後の動きが注目される (C)AFP=時事

 

 北朝鮮が要求した「寧辺核施設廃棄と国連制裁5件解除」という取引はあまりにも欲張ったもので、米国が受け入れる可能性はなかったと思うが、もう少し低いレベルの合意は不可能だったのだろうか。例えば寧辺の一部施設の廃棄と、終戦宣言や連絡事務所の設置などを取り引きし、制裁の解除や緩和は今後の協議に委ねるという選択だ。

「スモール合意」はできなかったのか

 これに対してドナルド・トランプ米大統領は、会談後の記者会見で「何らかの署名をする可能性はあった。実際に文書を準備していたが、それはふさわしいものではなかった。私は事を急ぐよりも、正しく行いたい」と述べた。

 今回の首脳会談が事実上の決裂となった理由は、これまでに述べてきたように、北朝鮮の過大な制裁解除要求と、寧辺以外の秘密のウラン濃縮施設の存在に触れられたくないということにあったわけだが、ある種の「スモール合意」を選択することは可能だっただろう。

 トランプ大統領も語っているように、「合意文書」の準備はできていた。おそらくはその合意文書案は、対立点を空白にしたり、いくつかの選択肢を示したりしたようなものであろう。首脳会談を「成功」したと取り繕うためにレベルの低い合意を発表することは可能だったはずなのだ。しかし、トランプ大統領はそれをしなかった。

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