まことの弱法師(33)

執筆者:徳岡孝夫2019年3月17日

 アメリカの大学が厳しい理論闘争の場所であると私は言いたいのではない。特に学部生の間にはノンビリと学生時代を楽しもうという気風が漂っていた。

 これは男女交際とは無関係だが、室友と議論したことがある。男の学生が男子専用の体育館へ行くには素っ裸でなければならないと彼は言う。私はまさかと反対した。

 試してみようということになり室友と私は海水パンツを穿いて体育館へ出かけた。足を踏み入れるや否やスピーカーが大声で怒鳴った。

「その2人の男、薄汚いパンツを脱げ」

「ほらね」と室友は言い、私は驚きながら脱衣した。しかし実際は、あれを穿いていたほうが運動がしやすいのである。

 女子学生はどうしているのかと聞くと「女子用の体育館がある」と答える。もちろん、それも素っ裸で、ただし外から覗かれないよう丘の上にあるという。

 それだけではない。女子学生は毎日レインコートにスニーカーという格好で教室に来る。当然下に何か着ているのだろうと想像する。

 ある日、1人の女子学生が「見る?」と言って2本の指でレインコートのボタンの隙間を広げた。見ると下はパジャマだった。ただし女子寮も丘の上にあって彼女たちは毎日眠そうな顔で(髪だけは仕上げて)教室にやって来る。我々は彼女を「オリンポスの女神」と呼んでいた。

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