スカラ座(イタリア)はサウジアラビアの資金援助を拒否することになるのだろうか…… (スカラ座公式サイトより)

 

 日本で『椿姫』として知られているジュゼッペ・ヴェルディのオペラは、原題を『La Traviata 』――直訳すると「道を踏み外した女」という。

 アレクサンドル・デュマ・フィスの小説・戯曲『椿姫』を読んで感激したヴェルディは、高級娼婦の純愛をテーマにオペラを書くことを決意する。

「道を踏み外した女」の「声」

 舞台は19世紀前半。この頃、羽振りの良い貴族や、産業革命でひと財産を築いた新興ブルジョワジーは、瀟洒なアパルトマンに美貌の女性を囲い、夜毎、社交界のお歴々を集めパーティーを主催していた。

 この社交界は正式な上流社会に対して、フランス語でドュミ・モンド(Demi-monde)「半分の世界」と呼ばれていた。

 この世界に生きる「高級娼婦」たちは舞台でパトロンに見初められた女優、ダンサーなどが多い。音楽、美術、文学などにも通じ、ウィットに富んだ会話ができたが、パトロンの正妻とは違い、「半分の世界」―裏社会―にしか生きられない。男の求めに応じて、浮き草のような暮らしをする彼女たちに、人間の感情があることなど、思いも馳せないのが普通だった時代――。その中でヴェルディは、オペラ史上最も崇高な純愛の旋律を、「道を踏み外した女」が歌うソプラノのアリアに与えている。

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