金正恩「新体制」と「対米交渉」の行方(6)

執筆者:平井久志2019年5月2日
金正恩党委員長を中心とした、国務委員会のメンバー。前列左端に崔善姫第1外務次官も(『労働新聞』HPより)

 

 朴奉珠(パク・ポンジュ)首相に代わって新首相に選出された金才龍(キム・ジェリョン)氏は、経歴すら詳しくは分からない、中央政界ではほぼ実績のない人物である。

「自力更生」本拠地の金才龍氏が首相に

 分かっている経歴は2010年8月に平安北道党書記(現在の党副委員長)、2015年2月に慈江道の党責任書記(現在の党委員長)に就任したというぐらいだ。今回の最高人民会議14期で初めて代議員に選出された。

 金才龍氏の起用には2つの要素がある。一つは、80歳の朴奉珠首相から60代とみられる金才龍氏に交代したという「世代交代」の側面だ。これは91歳の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長から69歳の崔龍海(チェ・リョンヘ)氏に交代したこととともに、まだ30代の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の権力内部の世代交代の流れを象徴する人事だ。

 もう1つの要素は「自力更生」だ。金才龍氏が慈江道の党委員長でなければ、こうした大抜擢はなかっただろう。北朝鮮においては、慈江道は「自力更生」の手本の地方である。慈江道は大半が山間地で農業が難しい一方で、軍需工場の多い地区だが、1990年代の「苦難の行軍」といわれた経済危機の時期に、「自力更生」をスローガンに経済建設を進めた地方とされる。慈江道の「江界精神」は自力更生を意味した。道内の各河川に中小発電所を建設して電力難を解消し、中小発電所は300を超えたとされる。

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