米サザンメソジスト大学政治学研究タワーセンター長のジェームズ・ホリフィールド (筆者提供)

 

 欧州連合(EU)離脱を決めた英国の国民投票で、いわゆる「移民問題」が大きな注目を集めたのは周知の通りである。EU残留派がこの問題を避けて経済論議に終始したのに対し、離脱派はこれを最大の争点として掲げ、大々的なキャンペーンを展開した。

 英カンター・グループが2018年に実施した調査によると、国民投票で離脱に投じた人が理由として第1に挙げたのは「EU移民に対するコントロールを取り戻す」だった。他の「英国の立法にEUがかかわるのを防ぎたい」「EUに対するこれ以上の出費を避けたい」といった理由を上回った。移民問題は、有権者を離脱支持に駆り立てる原動力だったと考えられる。

 ただ、移民を巡る議論は、一筋縄ではいかない。1つには、論理だけでなく感情や歴史認識などが議論に入り込むからである。もう1つには、「移民」とひとくくりに呼ぶ対象が実は極めて多様で、論議がしばしばかみ合わないからである。それでも、フランスで移民と言えば北アフリカ系、ドイツではトルコ系、といった多数派が存在するが、英国ではそのようなイメージさえ定まらない。また、後に検証するように、本来「移民」とはいえないEU市民を「移民」として扱うケースが常態化しているなど、問題は複雑である【注】。

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