だれしも人には知られたくないことがある。当人にとって知られたくないことは、たいてい他人にすれば、ぜひ知りたいことである。
本書『知ってはいけない薬のカラクリ』(谷本哲也著、小学館新書)に書かれているのは、製薬業界や医師(特に大学教授とか医学界で高名な医師)にとっては、できれば知られたくない事実ばかりだろう。
製薬会社も医師も、必ずしも悪いことをしているわけではない。だが、情報が公開されると、誤解される恐れがあるので、できれば隠しておきたいというのが本音ではないか。しかし、頬被りを続けていると、いつまでも世間の疑念は晴れない。
製薬会社からカネをもらった医師が、患者の利益より、製薬会社の利益を優先しているのではないか。また、薬の値段や適応症を決める立場の医師が、製薬会社から多額のカネを受け取って、判断が製薬会社に有利なものになっているのではないか。いわゆる“利益相反”である。本書が指摘する疑念は、ほぼこの2点に集約できる。
1種類で1兆円の処方薬
以前はたしかにひどい状況だった。私自身も外科医時代に、製薬会社から、てっちりや高級ステーキ、テニスツアーやカニ食べ放題の旅行などの接待を受けた。もちろん下っ端の私だけでなく、副院長から部長、医長を含む医局員丸ごとの接待である。麻酔科医のときには皆無だったので、首を傾げつつも、外科は派手だなと思った記憶がある。
記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。