米中貿易戦争の根源「二十一字方針」

執筆者:田中直毅2019年5月20日
「核心利益」を守れるか(C)AFP=時事

 

 日本からの訪中団に対して、北京では宴会を開催して応じる。その時隣席が誰になるかは、その場に居合わせるまではわからない。

 2018年12月中旬に訪中したある経済人は、「二十一字方針」を初見の隣人から説明されたという。習近平中国国家主席によって「不対抗、不打冷戦、按歩伐開放、国家核心利益不退譲」という対米貿易交渉方針が打ち出された、との解説だった。それはすなわち、「対抗せず、冷戦に持ち込まず、段階的に開放するが、国家の核心利益については譲らない」という意味。2月末まで第3弾の関税引き上げを相互に抑制するとした米中首脳の決定の背景を知る絶好の材料だ、と彼は受け止めた。「特ダネをもらったのかも」と、彼はその時思ったという。

 あとでわかったことだが、同様の説明をほぼ同じ時期に受けていた人は少なくなかった。1つの決定に関する同趣旨の一斉説明という共産党のやり方の一適用例であることが判明した。中国の内部でも同様の伝達方式が採用されたことは想像に難くない。

 中国共産党には、トップによる標語的な方針提示の伝統がある。鄧小平は「冷静観察、沈着応付、韜光養晦、有所作為」の「十六字方針」を提示した。目立たず力を養えという韜光養晦は、その後「中国はいまだ雌伏10年に当たり、雄飛は先のことと認識すべきだ」との鄧小平見解として広く伝わることになる。

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