アフガン戦争犯罪捜査拒絶の決定を下した3人の判事の中に、昨年就任した赤根智子判事もいた(ICCホームページより)

 

 現在までのところ、実際にICC(国際刑事裁判所)に1度加入しておきながら脱退してしまった国は、ブルンジとフィリピンの2カ国である。すでに述べたように、ブルンジ脱退の際には、効力発生の直前に正式捜査の開始が決定された。これに対してフィリピンの場合には、何も起こらないまま、2019年3月17日に静かな脱退が果たされた。もちろんその背景には、ブルンジに対してはすでに予備捜査が進んでいたが、フィリピンに対しては全く進んでいなかった、という事情がある。

ほとんど加入国がいないアジア諸国

 だが両国の違いを、政治的効果の面から分析してみることも可能だろう。ブルンジは、広範に脱退が推進されているアフリカの国である。脱退直前の捜査開始は、他のアフリカ諸国に対する抑止効果を放つことが期待される。

 それに対してアジアでは、そもそも最初からほとんどICC加入国がない。ICCには、「アジア太平洋諸国家」というグループ分けがあるが、かろうじてわずかに18カ国だけである。その中には「アジア太平洋諸国」の中から太平洋諸国が6つある。つまり中東から東アジアにかけての広大な地域におけるICC加入国は、キプロスとパレスチナを含めて、わずかに12カ国だけである。東南アジアでICCに加入しているのは、カンボジアと東ティモールだけにすぎない。フィリピンの脱退には、ドミノ現象を起こす要素がないのである。

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