1956年刊行の歴史副読本『怎樣學習歷史』(筆者提供)

 

 中華人民共和国文化部和旅游部が主管し、「全国中文核心期刊・A類学術期刊」と位置づけられる『中國京劇』(4月号/総第262期)が、新編歴史劇『大舜』を特集している。中華文明と伝統文化の礎を築いたと伝承される堯・舜・禹の3皇帝の1人、舜の生涯を柱に、3代の皇帝の間の禅譲という政権継承行為に顕現された自己犠牲と道徳性を称賛する内容だ。

 共産党政権が娯楽=宣伝=政治思想教育という毛沢東以来の伝統的文芸政策を放棄したと明言していないところから判断して、『大舜』もまた目下急務の政治教育の一環であり、習近平政権の文化行政当局にとってはイチオシの京劇と見做すことができるだろう。

『大舜』に、どのような意味が秘められているのか。同誌に収められた20本ほどの論文に目を通して考えてみた。なお、同論文からの引用は《  》で示す。

舜が主人公の京劇は1本だけ

 200年を超える歴史を持つ京劇においては、堯・舜・禹の時代を扱った演目は極めて少ない。京劇の演目を細大漏らさず収録し解説を加えた『京劇劇目辞典』(曽白融主編 中国戯劇出版社 1989年)には、伝統劇・革命現代劇・現代劇・新編歴史劇を含め5300本を超える演目が記されている。

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