【著者対談】「大国の周縁」から見た地政学

北岡伸一『世界地図を読み直す 協力と均衡の地政学』(新潮選書)

執筆者:2019年6月12日

 

池内 北岡先生の本で面白いと思ったのは、中国やロシアなど大陸国(ランドパワー)の周縁を丹念に回り、現地の視点から地政学を捉え直している点です。

 第一章に出てくる極東ロシアのウラジオストクには、じつは私も同行しました。

北岡 そうそう、ウラジオで池内さんが迷子になって……(笑)。

池内 私がトイレに行っている間に、みんながさっさと車に乗って会議場に出発してしまった(笑)。でも、会議の相手のロシア科学アカデミーが若いロシア人の研究者を迎えに来させて、オンボロの自家用車で来てくれて、おかげで車内で率直な意見交換ができました。このような予想外のハプニングから、意外な情報やアイディアが得られたりするので、実際に自分の足で世界を回ることは、研究者にとって大切なことだと思います。

『世界地図を読み直す 協力と均衡の地政学』の著者、北岡伸一さん

北岡 近代史の研究者として、ウラジオの駅舎を見た時は、やはり感慨深いものがありましたね。いろいろなことを思い出しました。たとえば幕末の頃は、ロシアより英米を脅威と感じる日本人も多かった。それが明治になってシベリア鉄道がウラジオまで来ることが分かると、一気にロシアに対する警戒感が高まった。たしかにウラジオから函館までは意外に近いんです。緯度もほとんど変わらないけど、ウラジオの港は冬は凍結して使えない。だからロシアにとって函館の開港は非常に重要でした。彼らからすれば函館は「冬場の港」だったわけです。

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