近年、「地政学」に改めて注目が集まっている。中国の南シナ海への進出から「一帯一路」構想に至るグローバルな影響圏の拡大は、冷戦時代に恐れられた共産圏の拡大に重ねるイメージで捉えられ、東南アジアや中央アジアだけでなく、アフリカやラテンアメリカへの進出も視野に入れているのではないかとの懸念もある。
そんな中で、副題に「協力と均衡の地政学」と入れられた、北岡伸一の『世界地図を読み直す』(新潮選書)が刊行された。本書はJICA(国際協力機構)理事長として世界中を飛び回る北岡がフォーサイトに寄稿した連載記事のまとめではあるが、極めてユニークで特徴的な著作としてまとまっており、一貫性のある視座と価値観に貫かれている。
3つのアプローチ
本書を貫く1つのアプローチは、現在話題となっている「地政学的問題」の主役である中国やロシア、アメリカを中心とした世界ではなく、一般には馴染みの薄い途上国や新興国だけを扱っている点である。これはJICAの支援対象がこれらの国々であるため、当然といえば当然なのだが、しばしば地政学的問題の対象として「草刈場」のように扱われる国々が、実は様々な問題を抱えながらもたくましく、強かに生き抜いている姿が描かれている。彼らの歴史や文化に対する北岡の深い敬意は、これらの国々を単なる国際政治の「従属変数」として見るのではなく、世界における「プレーヤー」としてのポテンシャルに目を向ける。「地政学」の見方が演繹的な手法から導き出される世界観だとすれば、本書は帰納的な手法で別の世界を見せる試みである。
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