山崎まゆみ『さあ、バリアフリー温泉旅行に出かけよう!』

評者:東えりか(書評家)

2019年7月14日

経験豊富な温泉ライターだからこそ伝えられる“楽しみ方”

やまざき・まゆみ 1970年、新潟県長岡市出身。現在まで32カ国の温泉を訪ねるフリーライター。著書に『おひとり温泉の愉しみ』『バリアフリー温泉で家族旅行』など多数。

 ここ10年あまり、1人暮らしの老母を誘い、年に1度温泉旅行に出かけている。毎年楽しみにしているが80歳を超えたころから足腰が弱くなり、バリアフリーの旅館を選んでも不満が残ることが多くなった。
 そんなときに見つけたのが本書である。世界32カ国もの温泉を巡って取材し、温泉専門のライターとして活躍する山崎まゆみが、高齢者や障がい者の旅行に同行して実地を検分、自らも介助者として入浴した経験をもとに「明日から実践できるバリアフリー温泉」の手引きを書き上げた。
 バリアフリーの旅館というと、平らな空間で清潔だが飾り気のない部屋のイメージがある。実際は今でも温泉旅館には段差の多い純日本式家屋が多い。昨今では完全なバリアフリーは無理でもバリアレス化することで、どんな人でも「温泉に行ける!」ように整備され始めた。
 私はこの本で「トラベルヘルパー」という存在を初めて知った。外出支援のプロで、旅の始まりから終わりまで同行し介助する仕事である。
 他にも温泉地や旅館によってその都度、介助者を手配してくれるサービスも紹介されている。介護タクシーも増えてきた。公共交通機関の相談窓口などを利用し事前に準備することで、旅の負担は軽くなる。
 故郷の新潟に行き、氏神様を探したいという車いすの父の願いをかなえるべく娘が用意した旅行は、日本トラベルヘルパー協会関連会社の旅行社が手配した。同行するヘルパーはさすがにプロ。家族の邪魔にならないように、しかし事故や危険が及ばないよう細心の注意をめぐらす。入浴の介助方法や食事の準備など素人では気づかないことばかりだ。
 無事に温泉に浸かったあとは、みんなほくほくとした顔で食事となる。諦めていた旅行や温泉を満喫した達成感が伝わってくる。
 著者には体の不自由な妹がいた。若くして亡くなった妹を温泉に連れて行けなかった後悔が、今の活動に繋がっていると語る。うちに閉じこもり気味な高齢者や障がい者が、旅を通じて外とのつながりを持つのは、励みとなりリハビリになるというのも頷ける。
 紹介されている介護サービスやバリアフリーの旅館情報も貴重だが、何より教えられたのは、一緒に旅行をしようという家族の思いである。使えるものは何でも使い、無理せず楽しむことが大事だ。2020年に向けてユニバーサルツーリズムを促進する日本。心もバリアフリーの楽しい旅を探してみようではないか。

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