(4)ユダヤ人問題

 本書『ヒトラーとは何か』(赤羽龍夫訳、草思社、1979年刊)第3章の「成功」で作者のセバスチャン・ハフナーは、アドルフ・ヒトラーは「右」だったのか「左」だったのかを議論している。

 世間的には「極右」とみられるナチスのこの独裁者をハフナーは、「決してそう簡単に極右に組み入れるわけにはいかない」と言う。

 また、ヒトラーは「決して民主主義者ではなかった」としている。実際、ヒトラーが支配したナチス、つまり「国家社会主義ドイツ労働者党」(NSDAP)なる党名のどこにも「極右」という用語は見当らない。それどころか、「社会主義(ゾツィアリスティッシュ)」とか「労働者(アルバイター)」などナチス党名に使われている用語は通常、左翼政党が好むものである。ところが、実体的には「極右」であるナチスはずる賢くもそれらを党名中に組み込んで、通常ならば「ドイツ社会民主党」(SPD)や「ドイツ共産党」(KPD)に流れるはずの票を手にしたのだった。

 つづく一文は赤羽訳によると、ヒトラーは「人民主義者だった」とあり、それに「ポプリスト」とルビが振られている。このルビは原著の「Populist」を再現したものだ。このドイツ語は辞書では確かに「人民主義者」と訳されてもいるが、ヒトラーが「ポプリスト」だったのは原理的にそうだったのであるから、むしろ「原理主義者」、つまり右翼「原理主義者」と訳されるべきであったろう。

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