イスラエル選挙後の中東情勢への影響見通し

執筆者:池内恵2019年9月21日

9月17日投票のイスラエル選挙結果を受けた連立交渉では、大統領が各党の党首に聴取し、最も連立政権樹立の可能性が高い首相候補を選んで、通常4週間から6週間程度の締め切りを設け、期限内に連立の合意を議会に届け出るよう依頼する。初動で首相候補の指名が遅れれば交渉の開始は遅れ、交渉がうまくいかなければ第二の首相候補に改めて4週間といった期間を与えて連立交渉を改めて行わせることになる。その間に、ネタニヤフが前回の4月9日投票後に議会の諸勢力に工作して解散・再選挙に持ち込んだような工作を再び行い、再々選挙となる可能性もゼロではない。その場合は来年1月に再々選挙の投票が行われる見通しである。少なくとも2カ月、あるいはさらに半年ほどイスラエル内政が混乱・停滞する可能性がある。

連立交渉の結果がどうであれ、2カ月から半年程度は、イスラエルが中東の外交・安全保障政策面で、近年に顕著に行使してきた主導的な役割が影をひそめることが予想される。

近年の中東情勢は、ネタニヤフが長年にわたり推進してきた対イラン強硬策が、米国トランプ政権やサウジ・UAEを巻き込むことでフル回転するというのが軸になっていた。しかしイスラエル主導の対イラン強硬策は、トランプ大統領自身の戦争回避姿勢や、サウジの政治・外交・国防上の能力不足、UAEの変わり身の早さなどで限界に直面していた。イスラエルの選挙民が、ネタニヤフの長期政権に飽き、歴代のネタニヤフ首班の連立政権のパートナー達がネタニヤフの政治手法に嫌気がさして離れ、ネタニヤフ夫妻の汚職への批判に司法が本格的に応えるようになったことなどが、内政上のネタニヤフの失点だったが、これに加えて、かつては「飛ぶ鳥を落とす勢い」だった外交・安全保障政策の面でも陰りが出たことを、イスラエルの選挙民および政策エリート層が敏感に察知し、民主的決定を通じてネタニヤフの権限を奪うことで、政策転換を図ったと見ることができる。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。