9月14日に行われた、サウジアラビア東部州アブーカイク(Abqaiq)とフライス(Khurais)の石油施設へのドローンと巡航ミサイルによる攻撃は、トランプ大統領の反応や、イスラエルのネタニヤフ首相の退任の見通しと合わせると、ペルシア湾岸地域・中東地域の国際政治に大きな影響を与える事象である。

この事件に対する国際的な世論・情報戦では「誰がやったのか」について議論が集中する。しかしこれは事態の深刻さを隠すものである。確かに、一方でイエメンを実効支配しサウジの軍事介入・空爆を受けているフーシー派が犯行声明を出しているのに対して、米国はイランによるものと断定し、イラン南西部から射出されたものとして、イラン政府の直接的な責任を問うている。サウジ自身は、イランによる実行としつつも、具体的にイラン国内から攻撃が行われたかについては議論の余地を残している。

しかし実際のところ、今回のサウジ石油施設への攻撃が明らかにしたのは、たとえ「イランの政権そのものが実行した」という動かぬ証拠が示されたとしても、イランに対する軍事的な報復は政治的に困難であるということである。

「もしイランに対する攻撃を行えば、イランはきわめて安価な兵器を用いて容易にサウジ・UAE・クウェート等の石油施設を破壊できる」ということが、この攻撃によって示された。ペルシア湾岸地域の勢力バランスが、イランによる安価な実際的な兵器の開発と配備と運用実績の積み上げによって、大きく変わってしまっていた。

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