【ブックハンティング】経営学者が「やはり終身雇用はやめるしかない」と考える理由

清水洋『野生化するイノベーション 日本経済「失われた20年」を超える 』(新潮選書)

執筆者:楠木建2019年10月5日

 

 裏表紙に「『最新経営学』で日本企業を復活させる!」という威勢のいい惹句が躍っている。出版社の編集者(著者本人が書いたとは思えない)が思わずこういうキャッチフレーズをつけてしまう。ここに昨近のイノベーションをめぐる言説が悪い意味でよく象徴されているように思う。本を1人でも多くの人に届けたいという気持ちはよく分る。しかし、それにしても、いかにもとってつけた言葉だと思う。

惹句に以下の口上が続く。

「米国のやり方」を真似すれば、日本の生産性は向上するはず――そんな思い込みが、日本経済をますます悪化させてしまう。米・英・蘭・日の名門大学で研究を重ねた経営学のトップランナーが、「野生化=ヒト・モノ・カネの流動化」という視点から、イノベーションをめぐる誤解や俗説を次々とひっくり返し、日本の成長戦略の抜本的な見直しを提言する。

 私見では、本書『野生化するイノベーション』はそういう本ではない。「イノベーションをめぐる誤解や俗説を次々とひっくり返」すといった“刺激的で面白い”本ではない。「日本の成長戦略の抜本的な見直しを提言する」といったスカッとした処方箋を伝授する本でもない。むしろ、その手のありがちな本でないというところに、本書の固有の魅力がある。

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