ロンドンでの首脳会談に際しては、笑顔を見せるマクロン仏大統領(左)とトランプ米大統領だったが、その腹の内は…… (C)AFP=時事

 

 中東での影響力拡大を狙うロシアも、米軍の撤退を利用してシリア北部に小規模の部隊を派遣し、「クルド市民の安全を守る」という名目でトルコ軍と共同でパトロールを開始した。

「ISは残虐に復活する」

 ドナルド・トランプ米大統領は10月16日に、

 「シリアはロシアに助けてもらえるかもしれないが、それは良いことだ。シリアにはたくさん砂がある。ロシア人は砂遊びをできるだろう」

 という、大統領らしからぬ幼稚なコメントを出した。彼が言おうとしたのは、「砂ばかりのシリアに米軍を駐留させるのは無意味だ。この国のために戦費を支出し、米国人の生命を危険に曝す価値はない」というメッセージだ。

 この言葉は、「アメリカ・ファースト」を標榜するトランプ大統領が世界の安全保障に大きな影響を与える中東地域の不安定化について、無関心であることを示している。さらに、シリア北部の「砂」の上に住むクルド人の安全も、彼の思考からは捨象されている。米軍の「イスラム国(IS)」との戦いを支援したクルド人たちが、「裏切られた」と感じるのも無理はない。トランプ大統領の行動の基本原則は損得勘定に敏感なビジネスマンの発想であり、地域の歴史の分析に基づく地政学的、長期的な戦略思考ではない。クルド人は米軍の役に立ったが、ISがほぼ掃討された今となっては、トルコ軍の餌食になっても米国の関知するところではないというわけだ。さらに来年の大統領選挙を前に、米国の中東への関わりを減らすという狙いもある。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。