灼熱――評伝「藤原あき」の生涯(86)

執筆者:佐野美和2020年2月2日
撮影年不詳ながら、義江との離婚、独り立ちを決意した頃のあき(自伝『ひとり生きる』(ダヴィッド社、1956年)より)

「事実は小説より奇なりと申しまして、世の中には変わった、珍しい、貴重な体験や経験をお持ちの方がすこぶる多いものでございます。今晩の『私の秘密』は……」

『NHK』高橋圭三アナウンサーの言葉から番組は始まった。

 イギリスの詩人ジョージ・ゴートン・バイロンの『fact is strenger than fiction』の原文を小説家の黒岩涙香が「事実は小説より奇なり」と訳したことを高橋は思い出し、この番組にぴったりではないかと第1回目の番組冒頭のセリフにしてみた。

 高橋は言ってみたものの人の訳した言葉に照れのようなものを感じ、2回目の『私の秘密』ではこの1文を外した。すると番組終了後『NHK』に「あのセリフをまた言ってくれ」と言う電話がいくつかあった。

(そうかな……)と思い直した高橋は再び使うことにし、以後番組にはかかせない名文句となっていく。

 あきのテレビ初出演は、品の良いゆったりとした番組テーマ曲が流れると、あれよあれよという間に番組は進んでいた。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。