ジョージアの人びとにとってワインは生き方そのもの(筆者提供、以下同)

 

 ジョージア・クヴェヴリワインの「伝道師」とも言えるジョン・ワーデマンの講演を、これまで5回にわたって紹介してきた。

 最終回は、原点に立ち戻ってクヴェヴリワインの神髄を伝える神話とクヴェヴリワイン醸造の実例を紹介し、最後にジョンの提言もお伝えしよう。

天空と大地の子供

 キリスト教が到来する以前のジョージアの信仰では、大地が母、天空が父に擬えられていた。ワインは、父なる天空の太陽の光を浴びて育ったブドウが、母なる大地に埋められたクヴェヴリという甕の中で熟成されて誕生する、「天空と大地の子供」と考えられていたのである。

 天から授かったものを一度大地に戻して、その恵みを最大限に享受し、余すことなく利用する。さらに、ともに盃を交える場を用意して、神を讃える宴を催すことで、国土の恵みと創造主に感謝する。どこまでもエコロジカルな発想ではないだろうか。

 やがてキリスト教文化が入ると、ブドウは更なる神聖性を獲得する。

ジョージアに伝わる「ブドウ十字」

 4世紀に王国をキリスト教の国教化に導いた聖ニノは、夢の中で聖母マリア(生神女マリアム)からブドウの枝で作られた十字架を授かり、これに自らの髪を絡ませて布教活動を行った。この「ブドウ十字」は、宗教建築のモチーフにも頻繁に用いられる。

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