これが人気の戯画(『FT』より)
 

 最初のロンドン勤務のおり、夏休みに車を転がしてイタリア旅行をしたことがある。

 まだユーロトンネルのないころで、ドーバーからフェリーでカレーに渡り、列車に車を乗せてイタリアに向かった。我々親子5人は向かい合わせの3段ベッド、2列に分かれて眠り、朝霧のミラノ駅からドライブ旅行を始めたのだった。

 ヴェネチア、ボローニャ、フィレンツェ、シエナと回り、ローマの宿から「ポンペイ遺跡」に足を伸ばした。

 遠くに穏やかなヴェスヴィオ山が見える大地に「遺跡」が残されている。

 西暦79年に大噴火が起こり、街は一瞬にして消滅した。厚い火山灰の下に、街が当時の面影を残しているのが発見されたのは、時を越えた18世紀のことなのだ。

 正直に告白すると、遺跡の石畳を歩きながら、2000年ほど前のローマ帝国住民の生活ぶりに思いを致すには、親子5人旅行は相応しくない。しかも12、10、8歳という年齢では、歴史も文化も興味・関心の外だからだ。

「性格・趣味の不一致」は十分、離婚の理由になるそうだ。だが、親子だから、そうもいかない。特に、後に人気漫画『美味しんぼ』の愛読者になる末っ子から「早くナポリに行って、ナポリタンを食べようよ」とせっつかれ、「ポンペイ遺跡」も「行った」という事実しか残っていないのだ。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。