灼熱――評伝「藤原あき」の生涯(92)

執筆者:佐野美和2020年3月15日
撮影年不詳ながら、義江との離婚、独り立ちを決意した頃のあき(自伝『ひとり生きる』(ダヴィッド社、1956年より)

 月曜日の夜7時半。7時のニュースのあとに『私の秘密』が始まる。

 この頃からの最新技術で、舞台を写す画面の途中に、ホールの観客の画が時折差し込まれる。和服の年輩婦人が圧倒的に多い。

 大きく開いた口からは金属の不恰好な歯が飛びだし、浅黒い肌の頰には笑うとさらに深くなるシワがきざまれている。

 実に幸せな笑顔であるが、出演者の藤原あきと比べるとその肌の質感は歴然としていた。あきは還暦を過ぎていて、観客の婦人たちもわざわざホールにやって来るくらいであるから、あきとそう年齢は離れていないであろう。やはりあきは驚異的に若い。

 司会の高橋圭三から、渡辺紳一郎の次にあきが紹介される場面になると、500万のお茶の間はブラウン管を食い入る様に見つめる。

「また違ったよ」

「衣装持ちだね」

 うぐいす色と銀色のよせ縞の小紋に黒い帯。ココア色の地に、真っ白な桜の花びらが舞う羽織を合わせ、春の訪れをあらわしている。

 あきは生涯一貫して、可愛らしい着物よりも渋い柄のものを好んだ。

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