灼熱――評伝「藤原あき」の生涯(96)

執筆者:佐野美和2020年4月12日
撮影年不詳ながら、義江との離婚、独り立ちを決意した頃のあき(自伝『ひとり生きる』=ダヴィッド社、1956年=より)

 あきは今まで感じたことのないような不安でいっぱいだった。番組を降板し、結党7年になる自由民主党から参議院選の追加公認者として正式発表された。

 選挙戦を前にして、これからどんな困難がふりかかってくるかと思うだけで身体がぎゅっと緊張する。

 頭に浮かぶのはテレビで見た国会中継の男たちが大声で喧々囂々と議論する様だ。この中に自分も入っていかなければならないと思うと、この期に及んで自分は本当に政治などできるのかと恐ろしくなる。

 そういえば、テレビ出演も初めの何か月かは緊張の連続だった。自分の顔や姿かたちの映りばかりが気になり、本番中というのに共演者がしゃべる言葉が耳に入らず、前の回答者と同じ発言をしてしまったり、とんちんかんな質問を司会者にしてしまう。しかしそれは司会の高橋恵三や他の回答者が、上手にかばってくれていたし上手に答えを引き出してくれていた。

 国会に行ったらどうなのであろう。矢のようにふりかかる野次のなかで自分の主張を理路整然と述べなくてはならないのだ。国会議員の大半は男の議員であるが、その男たちと議論していかなければならないと思うと暗澹たる思いだ。

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