オバマ政権が中東で模索する「巨大な協定」

執筆者:田中直毅2009年2月号

 二〇〇九年の年頭は、イスラエル軍によるパレスチナ・ガザ地区に対する分断作戦の苛烈化で始まった。これを受けて原油価格は上昇に転じ、〇八年十二月の四十ドル割れという水準はしばらくは想定しにくくなった。石油のもつ地政学的不安定性を再び認識せざるをえなくなったのだ。世界的なマネーの凍結のなかで、原油価格だけが上昇に転ずるという状況は、経済運営にとって好ましいことではない。一月二十日の米新大統領就任式典を前に、オバマ政権を構成する政策スタッフには動揺の色が表われたことであろう。 二月の総選挙を前にイスラエルの与党と政府はイスラム原理主義勢力であるハマスに対して、ガザからのロケット砲攻撃をもはや許容しないという姿勢を明らかにした。砲撃を封じ込める理論づけは「抑止」だ。「ブッシュの米国」が実質上終わり、「オバマの米国」の開始直前の状況において、イスラエル政府が「抑止」を掲げてハマスに武力攻撃を仕掛けた原因については、〇六年夏のオルメルト首相のもとでのレバノンに対する軍事攻撃の失敗が挙げられる。このときイスラエルは、軍事武装勢力でもあるヒズボラに勝利できず、国内の諸都市への砲撃をも許してしまったのだ。ヒズボラ指導者のナスララを結果として英雄に仕立てあげることにもなり、一九四八年のイスラエル建国以来最も脆弱な政府とアラブ諸国やイランで認識されるようになった。イスラエルの圧倒的とされる軍事力が虚像と化したのでは、国家の恒久的な維持はおぼつかないとイスラエル国民自身さえ思うに至ったのだ。これはオルメルト首相の指導者としての資質を根底から問い質すことになった。

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