トヨタ自動車のインド事業に注目が集まっている。同社は昨年四月、バンガロール郊外に第二工場を設け、新興市場・途上国向けに低価格の新小型車を生産する計画を打ち上げた。投資予定額はその後の追加も含めて六百八十億円。この成否がトヨタおよび業界の将来を左右すると見られているのだ。 ポイントは二つある。ひとつは新型車が売れるか。景気減速は新興経済圏でも本格化し、インドの新車販売も勢いが落ちてきた。新型車は一台五十万円前後を目指すとされるが、いくら低価格でも、年間十万台という生産台数が新興国などで捌ける可能性は低下している。 もうひとつのポイントは、当の低価格車を日本や欧米などに投入するか否かだ。高価な大型車の販売が世界中で急減しているほか、日本では軽自動車でさえ二〇〇八年の販売台数が前年割れに陥った。「軽より安いトヨタ」が登場すれば、先進各国の自動車市場は激変必至だ。 トヨタ自身にとっても、安価な車の販売台数が伸びたところで売上高の減少の歯止めにはならない。海外生産車の導入で国内生産が減れば、雇用の確保の面で、さらに厳しい批判を浴びる可能性さえ出てくる。 もっとも、今から計画を大きく見直すことも難しい。インドなど新興国は、鈍化が進むとはいえ、まだ成長の見込める稀少な量販市場。そこでの事業縮小は成長を取りこぼす失策だとして今度は株式市場で売り叩かれかねないからだ。

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